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品川翔英中高の挑戦
「学び続けるLEARNER」を育成する教育 001-2

2020年4月より、品川翔英中学校高等学校と名称を変えて、共学校となった本校。
本校の特色は、
1 担任制を廃止して「学年担任制度」「メンター制度」の採用
2 定期考査をから単元ごとの「確認テスト」を採用するなど

これからの社会を生きる人材の育成に取り組んでいます。

前回に引き続き公立はこだて未来大学(以下、未来大学)の美馬のゆり先生と本校学校長柴田との対談の続きをお伝えいたします。

<前編は、こちら>

美馬 のゆり 先生
学習環境デザイナー/学習科学者
公立はこだて未来大学システム情報科学部 教授
電気通信大学(計算機科学)、ハーバード大学大学院(教育学)、東京大学大学院(認知心理学)で学ぶ。
博士(学術)。公立はこだて未来大学および日本科学未来館の設立計画策定に携わる。
柴田 哲彦 本校校長
品川翔英中学校・高等学校 校長
福岡、東京で私立中高一貫校の開設に携わり、海陽中等教育学校教頭兼事務長を経て現職

美馬のゆり先生と柴田哲彦校長との対談(2/2)

進路を切り拓き、学校生活を充実させるための取り組み

柴田哲彦校長【以下(柴田)】
美馬先生の経歴を伺うと、多様な経歴をお持ちです。日本の大学はもちろんのこと、海外の大学、日本科学未来館の副館長、NHKの経営委員など、いろいろなご経験されています。これは常に学び続けているために、実現されたものでしょうか。

美馬のゆり先生【以下(美馬)】
学び続けているというよりも、「知りたいことがいっぱいある」という感覚です。人よりも知的好奇心が強いのですね。ビジネススクールで一緒になった人からも、「ほかの能力で劣るとは思わないけど、美馬さんの知的好奇心にはかなわない、知的好奇心は生まれ持ったものなのじゃないか」と言われました。柴田先生は、どうお考えですか?

- 柴田
私は、(知的好奇心は)先天的なものだけでなく後天的なもの、たとえば生育歴というものに大きな影響を受けると思っています。小さい頃の親御さんから子どもへの接し方は大きな点だろうと思っています。先天的に持っている好奇心に、周りの大人の価値観でフタをしてしまうことだってあるでしょう。

- 美馬
私もそれはあると思います。フタをされたまま潰れてしまう子どももいることでしょう。もしかしたら、教師が、一律に同じ接し方をしてしまうと、その傾向は強くなりますね。

- 柴田
私が、固定担任制の代わりに「学年担任制」を採用したいと考えるのは、まさにそのことです。担任である教師が、固定観念をもってしまうと、可能性にフタをしてしまいかねない。だから、多くの大人の目で子どもを見て、その生徒の長所を見出していくことが必要なのです。

もうひとつ、教師が第二の親として子どもたちと接していく中で、知的好奇心を刺激できるような対話をしたりして、フタをガーンと外すような役割をしていけたらいいなと考えています。そういう深いかかわり方をするために「メンター制」を採用しています。
授業においては、ただ検定を取らせるだけの指導になっていないか、授業が消化試合になっていないかなど、校長として、常に教師に語り掛けています。



- 美馬
一人ひとり子どもも違いますからね。集団に対して授業をするとき、どのレベルに合わせるかというのも難しいですし。そういうとき、学び方をいくつか選べるようにしておいて、芽がでるようにできたらいいですね。

- 柴田
本校での学年メンター制は、私がアメリカ東海岸のボーディングスクールを8校ほど見学した際、生徒たちが自分を指導してくれる先生を自分たちで選んでその先生のところに集まっているところを参考にして作成しました。
ただ、生徒たちにまだ本物を見せられていないという気持ちもあります。いわゆる『甘い先生』に服装頭髪が奇抜な生徒が集まっていたりして、アカデミックな部分で引っ張っていけるような勉強を教師自身がしていかなければならないと感じています。
先ほども申し上げましたが、教師があきらめてはいけない。

「どうせできない」を取り除きたい

- 柴田
生徒からも教員からも、「どうせできないよ」という発想を取り除きたいと感じます。先の取り組みにしても、「頭のいい学校だからできたんでしょう」とか。そういうことではないと思うんですよね。

- 美馬
未来大学でもそうでした。
「未来大学だからできたのでしょう」とか「新設の大学だからできたことでしょう」とか言われました。こういうことを考えるとき、ハードウェア、ソフトウェア、マインドウェアの3点が大事だと考えています。ハードウェアというのは建物とか学ぶ空間とかですね。ソフトウェアというのはカリキュラムとか授業とかですね。マインドウェアというのは心の持ちのことで、それがないと変わらないし、それが変わればすべてを変えていけると思います。

- 柴田
その3つが深くかかわってくるのですね。

- 美馬
例えば地方の小さい組織で予算が少ないからあれができないこれができないという発想ではなく、小さいからこそできることや地方だからこそできることを見つけましょうということです。それでも色々言う人には逆に「予算が潤沢にあって、生徒が意欲的にどんどん勉強していく状態なら、あなたは何をするのですか?」と聞いています。

- 柴田
逆転の発想ですね。今、うちに来ている生徒たちの中には、小中学校の時に忸怩たる思いを味わってきた人もいると思うんですよ。私はいつも、爆発力に繋がる導火線が湿っているだけであって、決して能力が低いわけではないと言っているのですが、その導火線をまず乾かすようなかかわり方をしてあげて、マインドウェアを整えてあげたいですね。

私たちが気を付けないといけない「便利な社会」と「不便益」

- 柴田
なんでもかんでもSNSが活用できる時代ですから、「明日はこれ持ってきてください」とか、どんどん配信するんですよ。これって、かなり危険ですよねと最近話しをしています。

- 美馬
制約があるからこそ立ち止まって考え、構造や方略に気づくことができます。何も制約がないと流れて行ってしまうだけになり、場当たり的になってしまいます。一回自分で立ち止まって考えることをしなければSNSでも失言をしたりとか人を傷つけてしまったりということになってきてしまいます。吟味をする、という時間を取ることの大事さを感じます。

- 柴田
これからAIの社会が到来しますが、人同士だからこそ議論をしたりとか考えるきっかけを持ったりということが大事だと感じています。



- 美馬
異質なものと交わることですよね。それこそ大村はま*3のグラスじゃないですが、違うものが見えてくることになると思います。

- 柴田
今の先生方に大村はまといってどれくらい知っていますかね。美馬先生の本の中でも、自分の考えを吟味し、深めていくため、そして新しい社会の在り方を考えていくために、哲学することは役立ちます。

- 美馬
私は特に家庭科と哲学がこれからの世の中を考える上で大事だと思うのですよね。哲学って物の本質は何だろうと考えることで、別に過去の哲学者が何を言っているかというのは哲学史であって“哲学”ではないのですね。「哲学する」というのは、本質を見出したり、共通することを見出したり、なぜかということを考えることだから、これから重要なのはこういうことだと思います。

便利な時代になり、様々な苦労をせずにすむようになった一方、物事を工夫したり、「どうしてこれが必要なのだろう」と考えを及ばせたりする機会が減りました。教育の現場においても、「これってこういうことなんだよ」「この教材をやっていけば伸びるよ」と便利な情報だけ効率よく与える先生が「よい先生」と見られる傾向があるように思います。自分で考えること、工夫することは本質的に自立した学習者になる上で欠かせない考え方であるように思います。

便利が当たり前になった時代だからこそ、一度立ち止まって考えるような教育の在り方を今一度考えていくことが必要だと思います。

1. 鈴木克明、美馬のゆり[2018]『学習設計マニュアル: 「おとな」になるためのインストラクショナルデザイン』北大路書房
2. 美馬のゆり[2021]『AIの時代を生きる: 未来をデザインする創造力と共感力』岩波ジュニア新書
3. 1928年~1980年に活躍した、国語教師・国語教育研究家

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